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知悉的学級閉鎖:02

私ははぐれていた。月並みな表現を借りれば、生まれながらにして。
そんな私にとって、隠し事の出来ないこの世界は非常に都合がよかった。心の傷は見えて然るべきなのだ。暴力はどこまで突き詰めても無限に暴力でしかなく、それ以外の要素を持たないほどに暴力でしかない。私はその現実を嫌い、現実は私を締め出した。
だから私が今、背丈もほとんど変わらぬ同い年の女の子に給仕しているこの非現実的現実は、至極筋道が通ったものに違いない。私には判断がつかないけれど。





「戦争はお好き?」
彼女が口を開いた。
「…それは、あの戦争でしょうか?」
「貴方がどの戦争を想像しているかはわからないけれど、きっとその戦争。経済、政治、イデオロギー、宗教、倫理観、アイデンティティの違いを背景に始まる人類史上最も非生産的かつ非合理的な行いのこと」
私は彼女も嫌いだった。彼女の言語的センスというものを除いて。彼女が自らの持つ膨大な語彙の中から選び、整え、そして発せられる言葉が生み出すテンポ、リズム、イントネーション、それに伴う仕草や息遣いは、羊水に浮かぶ胎児のように私を落ち着かせた。胎児に意識という概念あるいはそれに準じるものがあれば、という話だが。
「質問の意味がわかりませんが…」
「そんな難しいこと聞いてる?貴方個人は戦争そのものに対してどう思っているのか。ただの三択じゃない」
彼女は私が答えを導き出すのを待ちながら、じっとこちらの眼を覗き込んでくる。体の中で左目と右目が神経で繋がっているイメージを脳内に流し込まれ、眼が二つあることを改めて再認識させられるような、不思議な感覚だった。
いつしか私は、この猫のように大きな瞳で見つめられることに性的な興奮を見出してしまうようになっていた。脈が早くなり動悸がする。胸が痛み股間に違和感を覚える。とても物を考えられる状態ではない。こういう時、私は偽らないことにしていた。
「戦争が好きだなんて人種は殺人マニアと武器屋さんだけです」
「そうそれが正解。それじゃあ核兵器は?あったほうがいいと思う?」
「根絶するべきだと思います」
「なぜ?」
「よくわからないうちに、よくわからない人達の都合で焼かれるなんて、たまったもんじゃありません」
今度も偽らなかった。私にしては珍しく一般受けする回答だったに違いない。そんなものは往々にして彼女には喜ばれないと決まっている。
「そうね。そこが貴方と私の違い。ひいては貴方の足りない部分。わかる?」
「どうして核兵器が必要だと?」
「だって地下鉄で迷っちゃうじゃないの。とても困るでしょう」
よくわからなかった。それで当たり前なのだ。ここは違う世界で、私は異世界人なのだから。
核兵器が存在することで東京メトロが快適に機能する世界。そこに論理付いた説明が加えられる世界。それが今私がいる世界。




私は違う世界からやってきた。この新しい世界には彼女しかいない。
この現実が好ましいものなのかどうか、私には判断がつかない。第三者が必要なのだ。
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No title

いいなあwさすらいさんは長文のほうが持ち味が出ますね。
あと何かこう今の若い人の新しい感性が出ている気がします。おもしろい。

to albusさん

ウオーーーありがとーーーーーーーございますーーーーーー
やっぱ140文字で表せることなんてタカが知れてるゼェェェェー
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さすらいまる

Author:さすらいまる
受験生/ポエマー/リアリスト/合理主義/相対主義/不可知論/多元論者

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